はじめに冗長になりますが、評価軸が分かり易いように、今までのタイヤ歴や交換前のタイヤについてご紹介しておきます。
私も、以前はクルマを乗り換える度に、ハイ・グリップと呼ばれるタイヤにすぐに履き替えていました。
好んでそういうことをしていたわけではありませんが、コーナーではオーバーアクション気味にステアリングを切って、グリップに頼った「行先はタイヤに聞いてくれ」的な運転をした時期もあります。
ただ、年を経るごとに生活スタイルも、クルマの用途も変化していきます。
また、クルマ自体の基本性能も上がっており、ある限定条件下でのグリップの高さよりも、通常の運転の中での(銘柄やクルマの相性もあるでしょうが)妙な突っ張り感や引っ掛かり感、ドライとウエットの操作性の差異等のデメリットを感じることが多くなりました。
このようなタイヤに関する悩みをかかえている時期に興味を持ったのが、あるムックで紹介されていた「ミシュラン」のタイヤです(記事中に紹介されていた某タイヤ屋さんというのは貴社のことかと・・・)。
国産メーカーの性能や品質を信じてきた私ですが、ここは騙されたと思ってミシュランに履き替えることにしましたが、タイヤはやはり用途や自分の生活スタイルに応じた選択しないといけないということを認識しました。
その後も、ミシュランを選択してきましたが、買い増したクルマも、乗り換えたクルマも偶然にも装着タイヤがミシュランで、もう10年以上の付き合いになりました。
モデルによって当然差異はありますが、ミシュランの特徴は、
第一にそのインフォメーションの豊かさです。よくロードインフォメーションと言われていますが、私的には今、クルマがどういう状態なのか、挙動が掴みやすいという印象です。
第二にそのインフォメーションに対して修正の許容範囲が広いことです。
ラインがこれしかないということではなく、色々なアプローチが可能で、少しリスクを感じる場面でも、修正できるという安心感があります。
三番目は、回転の滑らかさです。コンパウンドというより、真円性が高いということでしょう。
特に、高速走行ではまるで滑走するようにクルマが進みます。これは長距離走行での疲労感を減少させてくれます。
最後は、ドライとウエットでの操作性に違和感がないことです。
ドライでは相当のレベルでグリップするけど、ウエットでは急に頼りなくなるような、今まで履いてきたタイヤとは違います。
もちろんどのようなタイヤでもウエットでは慎重さが要求されますが、だからといって特別な操作を要せず、ドライと変わらないスタビリティを感じます。
一言で言ってしまえば、“フツーのタイヤ”なのですが、このような特色はカーライフの殆どをカバーしてくれて、ミシュランの多くのタイヤは非常に汎用性が高いと感じています。
ただ、今回Audiの新車に付いていた「パイロット プライマシー」は今までのミシュランとは少し印象が違いました。
確かに、回転の滑らかさやインフォメーション性は今までのモデルと異なることはなかったのですが、プライマシーは少し尖がったというか、少々敏感な感じがしました。
気になった点としては、ハーシュネスやワンダリングが強めに出ます(特に、摩耗が進むと)。ギャップをふむとハンドルが取られるというより、そのまま車が流れる感覚です。ショックも車体に直接感じる部分も多かったです。また、空気圧の微妙な変化によってそれらの症状が増幅されます。
ハンドリングも今までのモデルのように舵角に対して広範囲で緩やかに反応するのではなく、中立付近がダルでタイムラグがあって曲がりこむようなクセがありました。
プライマシーの名誉のために言っておくとハンドリングやグリップの絶対的性能が劣っていることはなくかなりのポテンシャルがありました。サーキットやジムカーナに持ち込みましたが、さすがにハイスピードからフルブレーキングで一気に旋回するようなコーナーではさすがにキャパシティの限界を感じますが、高速コーナーやフル加速での立ち上がりでブレイクすることもなく、ウエット路面でのストレートで、200kmオーバーの速度でもかなりの安定感を示してくれました。
さて今回村上タイヤ様にリクエストさせていただいたのは、ミシュランの“汎用性”をスポイルすることなく、もう少しダイレクト感のあるハンドリングを実現できるようなモデルはないかということでした。
こちらから提示させていただいた候補は、他に純正タイヤとして採用されていた(当時)
●PIRELLI P-Zero Rosso、
●Cotinental Sportcontact2、
●DUNLOP SP SPORT MAXX、
●BRIDGESTONE POTENZA RE-050です。
これに対していただいた回答は、ウエット性能も高い“SPORT MAXX”と最適解ではないかもしれないが“ピレリ P-ZER0”ということでした。
最終的にP−ZEROに決定したのは、二度ほど相談させていたいただいた中で、私が提示した候補でないにもかかわらず二回とも推されていたことと、今までPIRELLIを履いたことがなかったということ、そしてSPORT MAXX等に比べて設計年次が新しいことでした。
さて、前置きが長くなりましたが交換した率直な感想は、私が求めていたイメージにほぼ近いタイヤでした。
個別に述べますと、
まずギャップに対する耐性もあり、ワンダリングもほぼ感じられません。外乱をしなやかにいなしてくれます。
ハンドリングは決してシャープというわけではありませんが、ステアリングに対して従順でプライマシーに比べてダイレクト感があります。特記すべきことは高速コーナーの安定感で、オンザレールという印象を受けました。
グリップは路面に食いつくというより粘るタイプかと思いますが、必要十分の性能です。
ただ、連続するタイトコーナーより、中高速コーナーの方がそのポテンシャルを発揮できるのではないでしょうか。
ウエットでは太い3本の太いグルーブの外見どおりハイドロへの耐性も十分で、ヘビーレインでもハンドリングへの影響も少ないです。
ただ、パターンによる排水性はプライマシーの方がうまく水が流れている印象がありますので、摩耗が進みグルーブが浅くなった時はどうか気になるところです。
アクセルオンの時の加速感はプライマシーよりダイレクト感がありますが、節度があるものでナチュラルな印象です。
高速域での転がり感はさすがにミシュラン勢に譲りますが、妙な抵抗もなく疲れは感じません。
高速走行時のスタビリティも十分で、不安を感じることはありません。
ブレーキングはそれなりの制動感の向上は感じられますが、制動距離にどれほど寄与しているかまでは確認できていません。
プライマシーの方が私のクルマのABS等電子デバイスとの相性は良いようです。
耐摩耗性については、まだこれからということになりますが、負荷をかけた後にタイヤの表面を観察する限り、プライマシーほど期待できないという印象です。
Audi A3 Sportback3.2quattroはサイズに比べて大きめのエンジンを積んでいる関係上、フロントヘビーで、他のモデルより足回りを固めています。
今回タイヤをリプレイスをした印象として、運動性能という点ではそれなりにスポーツ指向のタイヤの方が適しているのかなと感じました。
最後に、総合的な評価を述べますと、PIRELLI P−ZEROは運動性、安定性、汎用性を高次元にバランスがとれた非常に基本性能が高いタイヤだと思います。
クルマを振り回すような運転をする方には少々、物足りないかもしれませんが、乗り手のレベルにかかわらず、それなりのハンドリング性能を体感できるのではないでしょうか。
全く個人的な意見ですが、このタイヤのスイート・スポットは重量サルーンをきびきび走らせたい方や、逆にハイパフォーマンスカーを過激ではなく、安定指向で走らせたい方ではないでしょうか。
今回は本当にいい選択肢を提供いただいたことを感謝しております。
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