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ピレリの新商品、P-ZEROロッソ発表会が2000年の1月末にマイアミで開催されました。 それに招待されて、新タイヤ装着車を運転した体験を紹介します。



そもそも、こういう催しに
タイヤ屋が招待されること自体異例。日本からはウチを含めて 45社のタイヤ屋さんが参加(招待)しました。この手の催しは「ジャーナリストご一行様」が呼ばれるのが通例。今回は イタリアのピレリ社の太っ腹な企画です。マイアミのホテルとホームステッドサーキットを一週間以上 貸し切り、その間に世界中のタイヤ屋を呼んで商品の発表し試乗させるというもの。我々はアジア オーストラリア組として1月28日に到着し、アメリカ・カナダの北米組が帰るのと入れ替わりでした。
日本から招待された45社というのは、発売元のピーアンドエイ社が独自に設定した何らかの 販売本数をクリアして選ばれたそうです。

マイアミは遠かった(^_^;)。成田を出発して十時間飛行機に乗って ミネソタのミネアポリスに着。さらに四時間でやっとマイアミです。席はエコノミーです。だけど 文句はありません、だってタダだから(笑)。しかし「ジャーナリストご一行様」を招待する場合は大変らしいです。 某タイヤメーカーがヨーロッパで新商品を発表し日本のジャーナリストご一行様を招待した時、ビジネスクラス を用意するのは当然、ホテルの格にもあれこれ気をつかい招待する方はとても苦労されたとのこと。 さらに「発表会、サーキット試乗会。その後に意味なくロンドン行き」があったらしい。 「ロンドン行きに何の意味があったか?」答えは、「参加者の中の重鎮がロンドン好きだから」だと。 (笑)。

ホテルに到着するなり展示しているP-ZEROロッソを発見! 「ピレリらしくないトレッドデザイン」というのが個人的な第一印象。もっと言えば「ミシュランみたい」とも 言えないこともない(笑)。スポーティさ、荒々しさを全然感じさせないトレッドデザインゆえに、「マイルドな 性格」「ノイズ乗り心地を考慮した扁平タイヤ」であることは容易に想像つきました。



1月29日の発表会ではヤッパリ居住性を向上させた タイヤとしてP-ZEROロッソが誕生した旨の説明がありました。環境問題がクローズアップされて タイヤから発生するノイズすら騒音公害としての規制の対象となってきた昨今の風潮に 合わせたでしょう。またスポーツカーといえども、静粛性や路面からの突き上げを緩和する よう求められており、それに答える為にはこのようになったと思います。

ノイズ対策、乗り心地の確保はショルダー部のサイピング (ピレリらしからぬ)、低温時でも柔軟性を失わない新開発コンパウンドで対応。

軽量ベルトやアラミドパルプを使用したコンパウンドも 技術革新として説明を受けました。僕自身このアラミドパルプによるコンパウンド が高温時でもタレが少ないという点が一番印象に残った。つまり高温時も高剛性を確保すること。 タイヤ素材においてシリカ配合が当たり前になっている現在、より進んだ技術です。

アウディTT、RS4の新車装着タイヤとして 承認を受けているているとのこと。僕が近所のファーレンで見たTTはポテンザだった、 ましてRS4などクルマ自体日本で目にするかどうか疑問(だってS4の730万より高いんでしょ?)。 つまり新車装着でP-ZEROロッソを見る機会は少ないでしょう。将来的にはメルセデスやポルシェ に承認されれば見る機会は増えそうです。

スコーピオンZEROというSUV車用タイヤ の20インチ、21インチ、22インチ(!)も同時に発表になりました。翌日試乗会会場 のホームステッドサーキットで見たベンツMクラスには20インチのスコーピオンZEROが ブラバスのホイルとの組み合わせで装着されていました。


生産工程自動集約システムMIRSという ヘンテコリンなロボットの腕のような形をしたタイヤ製造機械のようなものを 紹介するビデオも見ました。帰国して某タイヤメーカーの人と話たら「そりゃスゴイ!そういう のをピレリが開発している噂は昨年からあった」とのこと。何でも現在のタイヤ生産の 機械は基本的にミシュランが50年前に確立し特許を取った何とかというモノを継承しているらしく このMIRSはまったく違うとのこと。そういう革新的な機械ならもっと真剣にビデオ見れば よかった(笑)。もらった資料には次のように説明されてます。
「ピレリ社が昨年12月に導入を決定した生産工程自動集約システム MIRSは高度な自動生産工程システムであり、いよいよ2000年から稼働を開始します。 最初のMIRSはミラノ近郊のビコッカ工場に設置され、生産能力が飛躍的に向上することに なります。MIRSの導入はアメリカ市場の重要性を視野に入れた戦略プランということができます。 専有面積わずか300平方メートルのMIRSは画期的な生産工程自動集約システムで、三分に一本の 早さでタイヤを生産します。MIRSは100%クオリティーコントロールを可能にすると同時に 80%の生産性向上と大幅なコスト削減を実現しています。いわばミニ工場といえるMIRS は必要な場所に簡単に設置できるため、例えばカーメーカーの工場そばに設置すれば 輸送、物流コストをゼロにすることも可能です。」
これは確かにすごい。タイヤを作る工場ってバカデカイのが通り相場。この常識を 根本的に覆すこともありうる。カーメーカーの工場そばに設置 したり、あるいは作った横にタイヤ屋を出店というのもアリか?そうなりゃタイヤも ケーキ屋のように、作る横で売って新鮮さをアピールできる時代が来るかも(^-^)。




翌1月30日は試乗会が ホームステッドサーキットでありました。基本的にはオーバルコースでインフィールドの テクニカルコースも使用して様々な状況を多彩な車種で設定。余談ですが、ここってCARTが開催され99年の開幕戦 で服部尚樹がスタート直後にクラッシュして骨折しました。ピレリ社のアメリカ人スタッフ にその事を話したら「服部というCARTドライバーは知らない」と言われた。ヒロ松下の方が有名なのは 意外だった。

まずはBMW Z3でウエットの定常円旋回。二台のZ3が用意されていて、 一台にはP-ZEROロッソもう一台にはグッドイヤーのイーグルが装着。これは乗る前から結果がわかった。 当然P-ZEROロッソの方があらゆる面で優れていた。ただ北米市場でのグッドイヤーの規模や認知度を意識して 競合商品としてのイーグルが選ばれ装着されていたと想像つくも、我々日本のタイヤ屋とすればBSのS02や ミシュランのパイロットスポーツと比較したかったというのが皆の本音です。

次にベンツE400でのウエットブレーキングこれは嬉しいことに ミシュランパイロットスポーツとの比較です。ベンツに計器が積んであって、時速90km/h前後から ブレーキを踏んで停止させます。ブレーキ開始時の車速は同一にしようと思っても実際にはマチマチ になります。だからその中で時速70km/hから10km/hに減速する部分のみの、時間、距離、減速Gを機械が読みとります。 ミシュランのパイロットスポーツとP-ZEROロッソそれぞれ4回行いました。結果は下の表のとうりです。
P-ZEROロッソパイロットスポーツ
平均制動距離平均制動距離
19.085m 20.415m
平均所要時間 平均所要時間
1.754秒1.83秒


ウエットハンドリングではBMWの540を使って これまたミシュランパイロットスポーツとの比較。これは正直なハナシどちらが優れている とか区別はつけられなかった。両方良くて、悪い点も見つからない。あえてフィーリング の違いを表現しようにもふさわしい言葉が見あたらない。すいません、両方良かったという のが偽らざる感想です。ウエットハンドリングのオマケでアウディTTを運転。これは楽しかった。 これまで乗ったどの4WDとも違った独自の世界。お金があったら買いたくなるぐらい気に入りました。 実はオマケとしてポルシェのカレラ4も用意されていたのですが、我々が運転できる予定の時間のほんの前に クラッシュしてフェンダーがボッコリ。走行不可能な悲惨な姿を見るにとどまりました。

ドライハンドリングとして911カレラ、ベンツSLK, アウディS4、ベンツCLK、アウディTT、マスタング、ビートルなど名だたる車が用意されていました。 インフィールドのテクニカルコースを使って走りを堪能。 これは同一車種に異なるタイヤを装着という意図ではなく、すべてP-ZEROロッソのみを装着。 お楽しみくださいというようなモノです。あるいは幅広い車種にP-ZEROロッソは適応します と知って欲しいのでしょう。運転した中では6速の911が楽しかった、当然か(笑)。

余興として(?)フェラーリのレース仕様(355チャレンジカップ) をオーバルコースでウインストンカップ(ストックカーレース)出場プロのドライバーが運転。助手席に同乗しました。 僕が昔レースやっていた頃の西日本サーキット(現MINEサーキット)の最終コーナーは壁に向かってギリギリに 走っていくようなコーナーでした。オーバルはそれが4つ組み合わせたようなもの。助手席側って外側に なるためにコーナー出口で壁にジリジリ近づいて少しは刺激的体験でした。ただドライブする方も、全開のはずなく 六割だか七割だかのスピードで十分安全マージンを確保していたと思います。

午前中のスケジュールはこれで終了。サーキット内のコントロールタワー 付近に設置された特設レストラン(?)昼食。その間は他の参加者と午前中の催しについてあれこれと雑談。 「パイロットスポーツの方が良かったぞ」「さすがP-ZEROロッソ」などと思い思いの印象を語り合い 楽しいひとときでした。



午後からは一般公道を走るという何とも大胆な企画。 用意された車両も、ポルシェ、S2000、ベンツM(20インチスコーピオンZERO装着)、アウディA8、 サーブヴィゲン、ボルボS80などなど。クジによって何を運転するか決まります。サーキットから 約50km離れた「ワニ園(フロリダらしい)」まで行って、帰路は車も道も変えてサーキットに 戻りました。僕は行きも帰りもサーブでした。行きは普通の9-3ハッチバック、帰りは同じサーブ でもヴィゲンというチューナーもの、マニュアル、しかもオープン。

P-ZEROロッソ225/45R17が行きのサーブに装着されていました。 このクルマは素の状態のオートマの普通のハッチバック。これにP-ZEROロッソの組み合わせは すごく良かった。前日の発表会で説明された「居住性とスポーツ性の両立」 がビシビシ感じられた。二人一組で交代しながら運転したんですが、僕はピレリの日本での 輸入発売元ピーアンドエイ社の傳田社長と組みました。「前日の説明だけでは眉唾の部分もあったんですが 払拭しました。」と僕が言うと「実は私も疑問は持ってました、自社製品とはいえ(笑)。でも こうして自分で運転したら嘘じゃないのが体感できますね。」との正直な受け答え。

帰りのサーブは嫌いでした。ドッカンターボのFFというだけでも 、無理のかたまり。それをマニュアルでしかもオープンで剛性低いために余計に悪い方向へズンズン進んで 行ったようなクルマ。妙にスポーティさを演出するつもりがダメになった典型のようなモデルです。 直進をグワーッと加速するのが唯一快感でそれ以外はペケでした。タイヤは当然P-ZEROロッソが装着されて いました。こういうクルマなら「ニセスポーティー」を助長するために、むしろゴツゴツしたヨコハマM5あたり の頃の日本のハイグリップタイヤの方が向いているようにも思います。もっとも最近は日本のタイヤメーカーと てDNA GPのように居住性も考えたタイヤ作りが基本となってますが。



というサーブを運転して、サーキットに戻りました。 我々5台のグループはワニ園を最後に出発。他のクルマは当然既に到着と思っていたら、誰もいない(^^;)。 それから待つこと40分、あたりは暗くなってサーキットも警備員しかいなくなった頃やっと他のグループが到着、 さんざんに迷ったとのこと。本来のコースは 行きは遠道、帰りはショートカットで帰路の所要時間は短いという設定。我々はそのコース図とうりに戻った。 我々以外の帰路は「コースどうりに帰路についたはずが、一発目の交差点を逆に曲がり、本来のコースへと 修正せずに往路と同じ道で帰るよう先導車が決定。しかも往路を逆に走って帰る予定もさらに途中で道を間違った。」 らしい。先に到着した我々の一人が「いっぱい運転できて良かったね。」と声をかけるも 全然受けない、寒ぶー!

試乗会の一日が終わりホテルに戻って夕食。翌朝三時半起床という スケジュールでマイアミをあとにして、すべての日程が終了しました。


P-ZEROロッソの発表会、試乗会はこのようにあわただしく終了しました。 帰国したのは2月1日です。月末を挟む日程の為に、支払いの準備を出発前にしなきゃならないとか、 の大変さを差し引いても楽しい数日でした。 他の参加者(タイヤ屋さん)と話した中でも「こういう高価格のタイヤを売っていくのは、非常に厳しい状況 にある。」という意見が多くでました。特に2000年からミシュランのパイロットスポーツは30%ぐらいの 値下げを断行しました。これはP-ZEROロッソへの対抗というより、BSのグリッド2をはじめとする値頃感 のあるハイパフォーマンスタイヤへの対抗と言ってました。でも結果的にP-ZEROロッソへの影響も大です。 例えば(買いたいと思ったサイズが)ミシュランのパイロットスポーツとP-ZEROロッソとで金額が近いなら 消費者の好みや両商品への好感度や期待度で自由に選択可能です。しかし実際にはP-ZEROロッソの方が 高いのは明白なので、よほどしっかりした広報活動や販売体制をしないと苦戦すると思います。幸いにも と言うか、相変わらずというかミシュランのパイロットスポーツは商品供給面で劣っている(品物がない) 状況が継続しているので、つけいる隙はあるとも思います。

また、参加したあるタイヤ屋さんが「試乗会の午後の部に用意されていた 車両って全部新車だったよね、しかもレンタカーじゃないし。そこまで金を使うピレリの気合いには恐れ入るが 新車のつまりボディー剛性がしっかりした状態でのP-ZEROロッソを運転してすべてを知ったと思うのは違うと 思う。何万キロか走ってボディーやサスが劣化した際の印象を違う可能性もあることを知っておくべきだ。」 と話されてました。鋭い指摘、まったくその通りです。仮にお客さんがP-ZEROロッソを買う場合に、新車にすぐ付ける こともあるし、何万キロか走ってホイルと一緒に買うこともあるでしょう。同じクルマでも買う時期に よって状況は変化するワケです。ですから今回ここに書いた、僕が運転して感じた印象は「どのクルマもすべて新車の状態」 ということを理解して参考にしてください。

今回デジカメを持参しなかったので、普通のカメラで取った写真 をスキャンしました。画像の質が悪いのはそういう理由です。

マイアミでの数日中特に試乗会の時は「これを知ってもらおう」 「この印象、これを伝えよう」と瞬間瞬間は感じていました。ただイザこうして紹介しようと キーボードの前に座るとしょせんこんなモノです(^^;)。思ったコト、感じたコトの全部を伝えることは 結果的に出来ませんでしたが、何らかの役に立てたら幸いです。ご意見ご感想はお気軽にどうぞ。

 
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